〜パリのオデン屋ブイヤベースとブロン牡蛎の凄さ〜
10日前にウィーンからもどって、バタバタしていたら、
もう、フランス行きのその日になっちゃった。
これは、久々にプライベート。といっても、今年71歳になる母の付き添い。目的は、ブルゴーニュで行われる、クロード・ブジョという”ワインの騎士”を任命する晩餐会に出席のためなんである。実はこれ、父親が何年か前にその栄誉に預かりまして(そんなにワイン詳しくないんだよね。文化人枠か)、親は何度となくそこに足を運んでいるのだが、今年は父が行けず、私にお鉢が回ってきたということです。考えてみれば、クラブやなんやらで、仕事で行くのは完全に大都市ばかり、もし、プライベートならばインドやヒッピー秘境に行きがちの自分としては、オーベルージュな旅、それも、老親と、というブルジョワーな経験は大歓迎。
老親と娘のフランス旅行.....。キャサリン・ヘップバーンとキム・ベイジンジャー主演で映画化したいような設定でもあるが、心に悪魔を持つあの不思議な婆さんと、歳とともに分別をなくす方向で生きている私、しかも、お互いに「親子じゃなければ、絶対に友達にならない」と心の底で思っているふたりなので、結構、行く前は憂鬱だった。こっちと違って、母は暇のすべてを晩年の一大イベントにかけており、出発一週間前から毎日のように、電話があって面倒くさいことこの上ない。しかし、今回のフランスの暴動でビビっていると思ったら、それはそうでもないらしく、「養老院で衰弱死よりも、パリで爆死の方がカッコいい」だと。
エアーは、ブリティッシュ・エアウェイズのビジネスの安い方を予約。安い方、と言ったのは、現在、ビジネスクラスは、フルフラットに移行しつていて、旧来のビジネスシートが今、こういう形に移行しているんですね。何せ、老親なんで、この辺は配慮。機内食はすべて、和食にしたが、このベントー系、いつも不思議に思うのだが、日本でつくっているのになんで味が、「アチラの東洋人経営のなんちゃって日本食屋」の味にバッチリ着地するんだろうか? 全世界マズ旨選手権のトップテンには入るだろう。ちなみにマズくて旨いもの2005年は、手前ミソながら、この間、野宮真貴インアゲハのVIPルーム用に自らがつくった、カツオのたたき藁薫製に決定。いやー、極上素材を燻しすぎちゃったんだけど、ちょっとヤバい落としどころの味で、ポール・マッカートニの娘に落書きされた、ラウシェンバーグって感じでしょうか。宇川直宏先生がソレに強く反応して、平らげてくれたのはさすがである。関係ないけど、イクラばっかりを食っていた高城剛といい、才人は珍味がお好き。
ホテルは、サンジェルマンデプレにある、プリティーな三つ星、<ホテル・リュクサンブール>。ささっと着替えて、さっそく、今夜のディナーである、モンパルナスの<ル・ドーム>をボーダフォン携帯から予約。いや、やっぱり、ケータイは国際対応にすべきですね。日本からのケータイメールも電話も入るし、ちょっと高いけれど、仕事やりかけのまま海外に出るときのストレスが全くないのが精神衛生上とってもいい。英語のわからないタクシーの運ちゃんに、直接、レストラン側と代わってもらって、道案内もしてもらえるし。
<ル・ドーム>は直前まで原稿のやりとりをしていた、若手実力グルメライターの寺尾ちゃんに教えてもらったところで、魚に定評があり、直接、元は魚屋だったという、まるで、麻布十番の某居酒屋みたいなシステムらしい。道の角っこにドーンとあり、店頭には今が季節の牡蛎が魚屋みたいに並んでいて、ギャルソンが忙しく出入りして、それを厨房に運んでいる。ドアをあければ、そこは、パリお馴染みの、華やいだブラッセリーの世界。人気店らしく大入り満員で、フランス語の響きがわんわん響き渡って、この雰囲気だけは絶対に日本に招聘できない類のものだ。
それでまあ、季節柄、ブロン産の生牡蛎を注文したんだが、こ・れ・が・ま・た、ヤバイぐらいに旨い。ブロンの牡蛎は日本でも食べれるが、生のこれはやっぱり招聘不可能なもののひとつ。寿司もそうだが、生ものネタは産地を直接いただくということになるわけで、たぶんこの貝の餌と環境は全く、日本の海と違うのだということがわかる。そして、相当塩がきいているんだが、その塩も抜群のバランス。体調的にはヘトヘトだったんだが、これ三発で完全復活。渡仏前に食べた、某有名イタリア料理店のランチが二日酔いをさらに悪化させたのとは真逆である。
そして、真打ちブイヤベース登場。
魚をスープからいったん出して、骨抜きにして皿に戻し、スープを卓上で温め、ぶっかけて食す、というスタイル。様々な魚の出汁がコンクになったスープはまずいわけはないのだが、この味を統合するのが、サフランと塩、そして、魚に付ける、ニンニクたっぷりのアイヨリソース。この配合がたぶんこの店の秘伝ということなんだろう。野菜はジャガイモの小さいのがふたつごろんと入っているのだが、実は最も旨いのがこのジャガイモというセンスは、オデンにおける大根の位置、であり、やっぱ、フランス野郎はそのあたりをよくわかっておる。酒飲み、ってことですな。
ワインはブルゴーニュの、ああっ、うっかり名前を忘れた、ナントカ、ジュリエット、という、力強くて若い白。これも、もの凄く濃厚なスープから魚の味を引き出すのに大貢献している。
デセールは、シトロンのソルベのウォッカがけ。 気が狂うほど甘いソルベにウォッカは、それまで料理に比べると、マズ旨大賞ノミネート系。ってことは、この店、バリバリ、パリのローカルなんでしょう。母ちゃんのウンチクによると、「フランス料理は一切砂糖を使わないため、デザートでその敵を討っている」ということらしい。なんだかなー。
そういえば、母ですが、珍しいものに身を乗り出してキョロキョロ、フランス語を何年か習っているので、ギャルソンにいちいちしゃべりかけるので、うっとうしいことこの上なし。その様子がなんだか、昆虫みたいなので、「そのカブトムシみたいな、落ち着きのなさは止めなさい」といったら、「虫にたとえるとは何だ」と本気で怒っていた。でも、その身振りはなんだか、自分に似ているんだよね。飛行機の中では、タイムズ誌のウラ面に「すうどく」の数字パズルを見つけて、格闘していたし。誘うと絶対、ついてくるし。
帰るなり、即寝。時差ボケのせいで、朝六時に起きてこれ、書いてます。
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