帰国から、一週間、もう、夏休みの絵日記提出宿題となってしまいましたが、前日記の宿題となってしまいましたが、NY報告です。本当はこれら一切合切、帰りの飛行機でやっつけているはずが、ついつい、映画、見ちゃったんだよねえ~。それも3本も。
『恋とニュースのつくり方』というウェルメイド・コメディーは、月9の連ドラで上戸彩と田村正和でやりそうなヤツがその中の一本で、くだらねぇ~、と思いつつも、ついつい見ちゃったぜ。主人公のプロデューサーのひよっこ娘が激務と混乱の中で、ちゃっかりエリート同僚をモノにしちゃっているんですが、『四十路越え!』的に言えば、この女、自分から誘う女でしたよ。(とはいえ、このあたりはちょっとご都合主義的。時間の関係?)
今、スケジュール帳のメモを見ているんですが、一週間前の土曜日、26日は、今回最も激しく活動した日でしたね。まずは12半予約のアメリカン・キュイジーヌの雄<Bouley>でのランチ① → <Russian&Turkish Bath>でロシアン&ターキッシュバス&サウナ② → <CANBI RAMEN>でラーメン③ → <The Stone>坂本龍一ソロピアノライブ③ → <District 36>でベルリンのパーティー「M.O.N.D.A.Y}④ という天国と地獄を行き来するような一日でした。天国は①と③、地獄は②と④、途中のラーメンはつかの間の現世、って感じでしょうか。
さて、①の<ブーレイ>から始めましょうか。
トライベッカのデュアンストリートの小さい公園があって、ちょっとヨーロッパナイズされた静かな一角にある<ブーレイ>。シェフのデビッド・ブーレイは、90年代以降、めざましく美食都市に変化を遂げたニューヨークのフランス料理を牽引してきた存在として有名ですが、9.11事件の時に、日に16,000食もの食事を作り、それを4週間近く続けたことでも知られています。
エントランスは、壁面全部にりんごがディスプレイされ、その香りが早春の光に満ちたウェイティングに広がり、ホームカミングな感じ。通された席は、センターに向かって、ふたり壁面をバックに並んで座るというもので、理由を尋ねたら、「絵が見えるように」とのこと。確かに目の前には、ラベンダー畑の大絵画がバーンとある。バーンとあるんだけど、なんだか、なんでも鑑定団に出た日にゃ、厳しい点が出そうな印象派。 この大絵画がもそうなんですが、柱やディテールはちょっと大江戸線六本木駅風のアメリカ仕様のアールデコが入っていて、ギリギリな感じもします。
メニューは、ブーレイがNYに定着させたとも言われる「美味しいモノをちょこっとだけ。そしてたくさん」というテイスティングメニューで6種類の味が出ました。
各々、3~4のメニューからのチョイスで組み立てるのですが、ちょっとおもしろい結果が出ました。私は、カンパチ、アンバージャック、マグロのカルパッチョ、パセリの根と椎茸風味のアーモンドとガーリックスープ、ホワイトトリュフはちみつがけ鴨のローストポルチーニのピューレとアスパラガス添えという流れ、望月君は、野菜のジュリエンヌサラダ、ピスタチオ味噌でマリネされたタラ生姜ソース蕎麦の実添え、鹿肉のロースト黒トリュフのニヨッキ、ケール、芽キャベツ添えという組み立て。私の組み立ての方が、たとえば、新鮮な刺身に醤油、のような、シンプルな組み合わせの中に上手さを感じさせる水墨画のような味わいなのに対して、お連れ様の方はカラフルな色彩が飛び交い、キャンパスの上でスパークする抽象画のような味わいなのです。
ピエール・ガニエールもお得意な素材から味の要素をリデュースして、それを自由自在に組み立てていくという因数分解&再構築の手法は、たとえば、私の一皿目のカルパッチョなどに鮮やかな印象を残します。オレンジ風味のソースにはそれにつきものの酸味がほとんど取り除かれ、その甘みが、マグロやカンパチの甘さと深く結託して、オリーブオイルの官能的な舌触りに解け合っていく、という感じ。
シイタケをはじめとして、ポルチーニなどなど、キノコ類を多用し、アーモンドやココナツなど甘さの多様性を追求している。しかし、先ほど言ったように、素材からその本質だけを抜いて来ているので、もう、その出自のエキゾチズムを感じる事はありません。
意外だったのは、あのざっくりとしたインテリアから、「コレでどうだ」という派手な仕立てを想像していたら、全く逆のどちらかというと、弱音の繊細さ方向だったこと。繊細でもそれが鋭さではなく、素朴な暖かさを持っているのです。そうなのよ! 素朴なのに豊かな12弦ギターのハーモニー感であって、ガニエールの脳の快感中枢を直接刺激するテクノ&ドラッギー方向と違うんですね。
彼はベートーベン好きだ、と何かで読んだことがあるのですが、メロディーと和声の才能(人をあっと驚かせ、味に耽溺させる)を潤沢に持っていながら、それを逆に抑えて、新しい味の創造に励むストイックさは、確かにその音楽の好みと同義です。
それにしても、日本食からの影響は多大で、アミューズに出た、ウニのゼリー寄せは、ゼリー寄せと言うよりも、まんま煮こごり、味噌マリネのタラは、銀だらの西京焼きの見事なフランス料理へのトランスレーションでした。
デザートにはチーズをいただき、大満足の2時間でしたが、さてさて、この天国の後に、とんでもない地獄が待っていたのですが、それはまた、次回。
(続く)
<ブーレイ>の外観。トライベッカのデュアンストリートの角。
アミューズのウニのゼリー寄せ。生姜の風味がしてほとんど煮こごりの趣。
カンパチ、アンバージャック、マグロのカルパッチョ。風味だけで酸味のない柑橘の妙と魚の甘さの結託
野菜のジュリエンヌサラダ。ジュリエンヌはこの葉っぱの中にお隠れになっている。
パセリの根と椎茸風味のアーモンドとガーリックスープ。アーモンドは多用されている。
ピスタチオ味噌でマリネされたタラ生姜ソース蕎麦の実添え。銀だらの西京焼きのキュイジーヌ転換。
ホワイトトリュフはちみつがけ鴨のローストポルチーニのピューレとアスパラガス添え。はちみつとポルチーニに鴨。ヌーベル・シノワーズを思わせる甘さのハーモニー。
鹿肉のロースト黒トリュフのニヨッキ、ケール、芽キャベツ添え。最もガニエール的な味の跳躍。
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