DOMMUNEのUstを最初にムードマンの時に見たときは、ホントに驚いたんだった。
Ustのことを知ったときに、これ、すぐにDJやクラブ関係者がブロードキャストとして使うだろうな、と思ったので、企てそのものに驚いたわけではないのだが、 DOMMUNEはとにかく映像と音質の良さが想像以上だったんですよ。
言うなれば、クラブでダンスに興じるオーディエンス自身の目と耳の動きをトレースしたような映像なんですよ。DJの手元ははっきりと見えるし、踊っている最中私なんかは、フロアでいいエネルギーを発している男女の人の顔や腕や胸なんかのパーツにずーっと釘付けになったりするのだが、そういう"心のタイミング"を本当にうまくつかんでいるんですね。映像のスイッチングのタイミングも本当に現場の音をよく聞いているからこその本物感がある。要するに、クラブ耳、クラブ目がある人たちしかできない技術で、その力が凄いので、あの驚異的な視聴率をたたき出しているのだと思うのです。
クラブの演出で最も重要なのは、照明だったりしますが、そのライティングの固定の色合いというか明るさも過不足なくドンピシャ。タルコフスキーの映画はもうあの水や炎の映像のタッチでタルコフスキーですが(NHK の「龍馬」の映像はあの低い画角とそれだけで龍馬)、DOMMUNEのUstはただのクラブの配信、ではなく、DOMMUNEというひとつの作品シリーズほどに質が高いのです。
そのあたりが、さすが主催の宇川直宏の面目躍如でしょう。彼は拙著「クラブカルチャー!」中にもインタビューで出てもらっているのですが、クラブをわりとコンセプチュアルにとらえる人で、過去に彼が主催したgodfatherというパーティーは、クラブと現場の"場"の祭礼性にフォーカスして、いわくつきの歴史や土地柄にある"場"(元やくざの大実業家の社交場など)をセレクト。その場に潜む地霊を召還するような、企てをやっていたのですが、今回のDOMMUNEでは、見事にクラブというイベントの構造事態をネットに表すことに見事に成功しています。
→「クラブカルチャー!」(毎日新聞出版局) http://www.amazon.co.jp/クラブカルチャー-湯山-玲子/dp/4620317292/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1275184535&sr=1-1
そう、あの映像の横にあるタイムラインのつぶやきというシロモノがヤバい。
世間が想像するクラブオーディエンスは、「陶酔しちゃって頭真っ白かナンパ」というバカ状態と考えがちです。しかし、クラブにハマる楽しみ方はそうではない。踊りながら、頭の中で激しく音と感情や感覚を遊ばせ、非メロディーなビートやソニックフレーズを、擬音でもって反復させたりするのですが、クラブの現場では絶対に表には出てこない個々のアタマの中のつぶやきが、映像の横に流れるようなタイムラインで出てて来るのですから。
これ、凄いですよ。「チッチキチー、キタ」「チッチキチキチー、チッチキチッチキ」と、同時に何十人もの人が擬音で同調する。そんなとき、部屋でコンピューターの画面の前に座って、それを見ている私は、本当にクラブの中で踊っているようです。逆にクラブで踊っている人を"描写"するなせば、それはDOMMUNEの映像とタイムラインかもしれない。この間、MAYURIの会の時は、「男子だけど、子宮にガンガン来ています」とあったから、「女子だけど、睾丸にガンガン来ています」と返したら、「湯山さんに今睾丸が生えました」とレスポンスがあってなかなか楽しい思いをしたのだが、それはクラブで踊っていて、センスの会う子と目と目があってほほえみ合う感じといいますか・・・。
私はかつて「クラブカルチャー!」で、文章を使って、あのダンスフロアの感覚をいかに、それを知っている人にも、知らない人にも伝えようと奮闘努力しましたが、それは今、DOMMUNEという企てでほぼ成し遂げられたような気がしているのです。クラブを知らない人に、クラブって何? 聞かれたら、黙ってDOMMUNEのアドレスをおくればいい。
さて、ジェフの現場ですが、雰囲気は普通の小箱の感じです。思ったよりも天井が高くて、ラグジュアリーなのはここが以前、デヴィ夫人のプライベートなバーだったから、というのを聞いて納得。ジェフは、一度、私の日藝の授業(一年、クラブカルチャーについて講義した年があったなぁ)にゲストででていただいたこともあり、また、バルセロナで寿司を握って差し上げたこともあります。生魚が苦手で、食材に苦労したけれど・・・。
ジェフの手元が間近にみられるソファ上に陣取ったのですが、あの驚異的なミックスのやり方に驚きまくりでした。もちろん、あのエキシビショニストのDVDで知ってはいたのですが、実際に生の音響で聞くと本当に細かいことがよく分かる。いや、全然分からない(何言っているんか・・・)。
とにかく異様な早さのミックス。盤一つ一つを彼はどのように知覚しているのか? そして、それだけの複雑な組み合わせをやりながら、どうやってDJの流れを組み立てていくのか? が全然分からないんですよ。あんまりつまみは回さなくて、盤と盤とのインとアウトをものすごく丁寧にやっていたのが印象的でした。なんというかなあ。あらかじめ、全体像があって、盤がそれぞれの楽器で譜面通りに演奏しているような統一感と構成力があるのです。(しかし、それは一期一会で場の雰囲気をリードし反応していくことが至上のDJという性質上ありえない)盤という素材の"味"を熟知してていて、組み合わせで斬新なムニュを作り出していく。(海原雄山のトゥールダルジャンの鴨と醤油のたとえを思い出すといいかも!)A盤とB盤、B盤とC盤がミックスされ、フェードイン&アウトしていく、操作自体はじっくりと繊細な手つきと、耳から来るサウンド変化のエステティックをこの夜ほど堪能したことはなかった。
帰りのタクシーに一緒に乗った、サードイヤーの広石君から、ジェフが最近DJで使う音盤は全部自分のトラック、と聞いて、かなり納得しましたけれど、それにしても凄い。私のジェフ体験のマックスは、07年のソナーインバルセロナなのですが、あの6000人をグリップする握力は、もう音以外の何かを扱っているとしか思えませんな。
ジェフの後を受けてのプレイはDJヨーグルト。KLFのチルアウトのモチーフアルバムが素敵だったのですが、DJは華やかでハード。
また、現場にお邪魔する所存。
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